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月夜の雨に猫と狐
         みょう

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ある月夜の晩。

「いーやーでーすー!いくら藍様に言われてもそれだけは嫌ですー!」

縁側を駆け回る凶兆の黒猫、その後ろには九尾の狐。

「こら、逃げるんじゃない!」

追いついた藍は手を掴み、そのまま持ち上げる。
身長差の分、橙の体は宙を浮き、ばたばたと足を振りつつ暴れる。

「ぎゃー!ぎゃー!」
「橙、お前もいいかげん少しは水になれないといけないし、それ以前にずっと式変化をしているのだから体が汚れているだろう?」
「うー、そんな事言ったって水に入るとせっかく憑けた式も…。」
「問答無用。」
「らーんーさーまーのーいーじーわーるー」

顔をぷくっと膨らませ、すねた表情をする。

「はいはい…そんな事言ったって駄目な物は駄目だからな…」

必死の抵抗をする橙に、其れを軽々とかわす藍。
迷い家の中、彼女達は風呂に入ろうとしていた…のだが。
橙は化け猫であるが故、水に弱い。
風呂に入ろうものならその力は完全になくなり、骨抜きの茹で猫状態になってしまうだろう。
そして、今この状態である。
わきの下から抱きかかえるようにして橙を持ち上げ、無理やり風呂場へをはこぶ藍。
その状態からどうにかして脱出しようともがいたり文句を言ったりしている橙。

傍目から見ると、其れは姉と妹、それか保護者と子供のような関係。

藍の手を振り払おうと必死にもがくも、もう風呂場は目の前。
流石に水攻めは避けたい。そこで橙は、多少無茶な手に出た。

がぶっ。

「っ…!こら、橙!」

思いっきりではないものの、かなり力をこめた噛み付き。
藍が一瞬まわしていた手を緩める。
その隙を見逃さず、橙はすとんと床に降り、全速力で走り出す。

「待ちなさい!」
「待てっていわれて待つ人はいないんですー!『飛翔毘沙門天』!」

橙は縁側からそのまま飛んで逃げていってしまった。

「あ、橙!…」

もうすでに闇の中へ消えてしまっていた。

軽く腕をさすりながら、藍はため息をついた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「藍様がいけないんだもんだ…。」

一方そのころ、どこかの草むらで橙は座り込んでいた。
逃げ出したはいいが、このままどこかいく当ても無いし、いつかは戻らなければいけない。
しかし、藍に怒られると思うと、家に帰る気持ちは前に進まなかった。
ただ虫の鳴き声が響いているだけだった。

そのころ、迷い家では。

「思ったより根性あるな…。」

藍は意外な展開に少し戸惑っていた。
きっと橙はそうしないうちに飛んで帰ってくるだろうと踏んでいたのだが、意外や意外。一時間半たっても帰ってくる気配はない。
月も雲に完全に隠れてしまっていた。

「…まずいな。」

屋根にあたる水の音。
藍は少し後ろを見て

「紫様、少し留守にさせてもらいますよ。」

何処にいるのかわからない主人にそう言って、彼女は迷い家をでた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

しとしとと降っていた雨脚はいつのまにか強まり、帽子を濡らす。

「うう…最悪…。」

雨を浴びた橙は式を落としてしまい、彼女自体もかなり弱っていた。
がちがちと歯を鳴らし、寒気で力が抜けていく体を強く自分で抱きしめる。

「藍様ぁ…早く来てよう…」

先刻のことなど忘れ、雨に身を震わせながら彼女は空を見上げた。




「ったく…私の主人といい、式といい。」
藍はそう愚痴を言いながら、空を飛んでいた。
周りには青い狐火。
地を照らすも、橙は見つからない…。





がさっ
草むらを書き分ける音。

「藍様!?」

そちらの方を向くと、其処にあるのは赤い二つの光。
暗闇に紛れ込む姿、其れは犬の形をなした何か。
精力なきその瞳の赤は、橙の期待を打ち砕くには十分すぎるものだった。

「…何よ、さっさとどこか行きなさいよ」

橙のような人の形を保つ式神と、姿すらまともに維持できていない低級な妖怪。
いくら弱体化しているとはいえ、彼女は負けるはずも無い、そう思っていた。
しかし、ぐるるるる、とうなる声、赤い光。

「!?」

赤い光はニ、四、六…、十二。
六匹もの妖怪が、彼女を取り囲んでいた。

「ひ…」

その消え入りそうな叫び声も、獣のうなり声と雨音にかき消されてしまった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ちっ…やめろぉ!」

爪を振りまわすも、その鼻先をかすめ、怒りを増幅させるだけ。
橙は逃げることも叶わず、その場にへたり込んだまま、ただ6匹の獣を威嚇する。
最初はばらばらに攻撃するだけだった獣達も、段々とパターンが出来てくる。

「きゃっ…」

彼女の頭を、爪が掠める。
何とか避けたものの、帽子がその爪に引っかかり、そのまま引きずり落とされる。

「ちょ、ちょっと…其れは藍様からもらった大事な…わっ」

理性を持たぬ彼等に、その文句が聞き入られる事はなかった。
彼女を襲う爪と牙。
ただでさえ雨で力を失った橙に、この状況は過酷過ぎるものだった。
じわじわと体力を奪われ、体から感覚が消えていく。
視界が霞がかり、意識が少しずつ薄れていく。

赤い瞳の一つが、自分に向かってくる、橙は絶望を覚えた。
その時。


青い炎が、赤い瞳ごとその獣を焼き払った。
醜い咆哮をあげ、その妖怪は消え失せる。
残りの五匹が一歩あとずさる。
橙のすぐ横に降り立つは九尾の狐、そして彼女の主人である、藍。

「低俗妖怪風情が、私の式に…何様のつもりだ?」

強い力を持った目で、獣達をにらみつける。
その瞳に恐怖をなした彼等は、一斉に襲い掛かった。

「藍様あぶな…」

その刹那、ニ匹の獣は先程と同じ炎に焼かれ、消え失せる。
ひゅ、と振った爪に、二匹は両断され、一匹は貫かれた。

残されたのは、藍と橙、そして降り続く雨。

地面に落ちた橙の帽子を拾い、泥を払いながら、藍は橙の方を見た。

「ご、ごめんなさい藍さ…」
「大丈夫だったか?怪我とかしなかったか?」
「あ…。」
「ほら、さっさと行くぞ。紫様が待っていらっしゃるはずだからな。」

藍は自分の帽子を取り、濡れた髪の毛を掻き揚げ、にっと笑って橙に手を差し伸べた。
橙がその手を取ると、藍はぐいっとその体を持ち上げ、背中に背負う形にする。

「ちょ、ちょっと藍様…そんなことしなくても大丈夫ですよ…」
「ぼろぼろの体でよく言う…。とにかく大人しくしていなさい。」

橙の方を見ず、少し語調を強める。橙は目を閉じ、藍の背中に顔を押し付けた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「うう…」

橙は今、かなりブルーだった。
其れもそのはず、彼女がいるのは風呂場。
あの後二人で迷い家に帰り、橙は藍からみっちり説教を受け、藍は紫からみっちり説教を受けた。
聞いていない紫の方が悪い気もするが、其処で抵抗できないのが式というものなのである。

そう、それは外と言う逃げ場を雨と言う原因で失った橙も同じ。
今、彼女達は風呂場にいた。

濡れてしまったから風邪を引く、と藍に理由をつけられ、逃げようの無くなった橙は、ただ不貞腐れながら風呂場の椅子に座っていた。

「じゃ、かけるぞー、息止めてなさいよー」
「うー…」

桶一杯のお湯を掛けられ、また意識が飛びそうになる橙であった。








 了





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どうしようもないあとがき

とりあえずでたコン藍支援です。藍様に申し訳ない内容になっていることは変え難い事実ですorz ごめんなさいごめんなs(ry

藍は橙を護るかっこいい式神さんなのですよということを前面にプッシュしようと思ったのに…
いつの間に橙ラブなSSに落ちてしもうたのでしょうかorz


展開は少年漫画の基本「ピンチのヒロインを助けるヒーロー」ですね(笑
いや、まて、藍、きみは男じゃないからうわ何を(ニラタル

文章構成完了
5/15

加筆、仮完成
5/20

すし〜さんのあぷらじに投下。お勧めいただいてまいました。どーしよ(ぇー
5/21
戻ろうよ
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